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神戸地方裁判所 昭和62年(行ウ)6号 判決 1990年7月11日

主文

一  被告は、原告和辻潤治に対し、四万九五五五円及びこれに対する昭和六二年二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告和辻潤治に対し、二六八二万五四五〇円、原告福島健三に対し、二二八五万八一九三円、及び右各金員に対する昭和六二年二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 被告は、起業者として、阪神間都市計画道路事業塚口駅小中島線、東塚口線、上坂部西公園線の土地収用を計画し、これについて、兵庫県収用委員会は、昭和六一年一〇月三一日、原告らに対し、裁決(以下「本件裁決」という。)をした。

(二) 原告和辻潤治は、別紙物件目録一記載の土地を、原告福島健三は、別紙物件目録二記載の土地を、いずれも、建物所有を目的として、土地所有者広田栄一から賃借している。前記両土地は、右土地収用の対象地である。原告和辻の借地の範囲は、昭和三四年の賃貸借の当初から変わつていない。

2  本件裁決の内容

本件裁決によれば、原告らに対する損失補償は次のとおりである。

(一) 原告和辻の分

(1) 借地面積を二四〇・七平方メートルとし、

(2) 更地価格を平方メートル当り二五万五〇〇〇円(昭和五八年三月八日時点)とし、

(3) 借地権配分割合を〇・五五とし、

(4) 物価変動修正を行い、

結局、損失補償の総額を金三五一〇万一七五〇円とした。

(二) 原告福島の分

(1) 借地面積を二三五・八四平方メートルとし、

(2) 更地価格を右借地面積のうち、二・七〇平方メートルについては平方メートル当り二五万五〇〇〇円(昭和五八年三月八日時点)、一八六・七一平方メートルについては平方メートル当り二二万七三〇〇円(昭和五八年三月八日時点)、四六・四三平方メートルについては平方メートル当り二四万二五〇〇円(昭和六〇年三月九日時点)とし、

(3) 借地権配分割合を〇・五とし、

(4) 物価変動修正を行い、

結局、損失補償の総額を金二八〇八万三二四七円とした。

3  適正数額

しかし、右裁決の数額は適正なものではない。適正な数額は次のとおりである。

(一) 原告和辻の分

(1) 借地面積は二八六・七〇平方メートルである。

(2) 更地価格は平方メートル当り三六万円を下回らない。

(3) 借地権割合は〇・六である。

これらの数字により損失補償額を算出すると、金六一九二万七二〇〇円となり、裁決の額との差は金二六八二万五四五〇円となる。

(二) 原告福島の分

(1) 借地面積は争わない。

(2) 更地価格は平方メートル当り三六万円を下回らない。

(3) 借地権割合は〇・六である。

これらの数字により損失補償額を算出すると、金五〇九四万一四四〇円となり、裁決の額との差は金二二八五万八一九三円となる。

よつて、原告らは、被告に対し、右各差額及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和六二年二月一五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1(一)は認める。1(二)のうち原告和辻が賃借した土地の範囲が別紙図面の一〇二B及び一〇三Bであることは認め、その余の土地が右範囲に含まれることは否認、1(二)のその余の事実は認める。

2は認める。

3のうち(二)(1)は認め、その余は争う。

第三  証拠(省略)

理由

一  請求原因1(当事者)のうち原告和辻が賃借した土地の範囲を除いた部分及び同2(本件裁決の内容)については、当事者間に争いがない。

二  原告和辻が賃借した土地の範囲について

1  別紙図面の一〇二B及び一〇三Bの土地が前記賃借した土地の範囲に含まれることは、当事者間に争いがない。

2  別紙図面の一〇二A及び一〇三Aが前記賃借した土地の範囲に含まれることを認めるに足りる証拠はない。

3  別紙図面中一〇二C及び一〇三Cのうち別紙図面ロ―ニ線より北側の部分(以下「甲地」という。)についてみると、原告和辻の供述によれば、同図面中イ―ハ線は原告和辻の所有する建物の外壁面を、ロ―ニ線は同建物の庇の端を示すことが認められるけれども、原本の存在及び成立に争いのない乙第二号証及び証人弓場晴男の証言によれば、原告和辻が土地所有者広田栄一から昭和三四年に土地を賃借する際に作成した土地賃貸借契約公正証書において当該土地の北側境界直線と南側境界直線との距離は五・八一間と明示されており、この一〇・五六三メートル(一間は一・八一八メートル)は、別紙図面リ―ハ間の実測距離と一致すること、広田が前記賃貸借の後に右公正証書に示した当該土地を現地で実験したところ、原告和辻の所有する前記建物の庇が当該土地の境界を越えていることを確認したことが認められ、以上によれば、甲地が和辻の賃借した土地の範囲に含まれるとは認めることができない(原告和辻本人の供述中にこれに反する趣旨の部分は、採用することができない。)。

4  別紙図面中ホ―ヘ―ト―チ―ニ―ホを順次結ぶ直線で囲まれる部分(以下「乙地」という。)についてみると、原告和辻自ら、乙地が昭和三四年の当初の賃貸借の目的の範囲に含まれていなかったことを認めており、同原告は、その後の乙地についての賃借権の取得原因事実を主張しない。

5  以上によれば、原告和辻の賃借した土地の範囲は、一〇二B及び一〇三Bの合計二四〇・七〇平方メートルということになる。

三  更地価格

鑑定の結果によれば、原告和辻の前記借地二四〇・七〇平方メートルの一平方メートル当りの価額は二五万五三六〇円、原告福島の前記借地合計二三五・八四平方メートルの一平方メートル当りの価格は二二万八〇〇〇円であると認めることができる。乙第八号証中原告和辻の借地部分に関する更地価格の判断は、甲第三号証の一ないし三、第四号証、原告和辻本人の供述に照らし、採用しない。

四  借地権の割合

鑑定の結果によれば、原告和辻の前記借地につき〇・五五、原告福島の前記借地につき〇・五〇が相当である。

五  適正価格

以上の結果に、本件裁決の採用した補償金支払期限時における修正率(乙第八号証=本件裁決書別表第1(3)中の算式(3)の結果一・〇三九八及び同算式(4)の結果一・〇〇五六)を乗じて、各原告に対する補償額を、別紙計算書のとおり算出すると、原告和辻に対する補償額は三五一五万一三〇五円が相当であり、本件裁決における補償額三五一〇万一七五〇円はこれに四万九五五五円不足し、他方、原告福島に対する補償額は二七七七万四七九〇円が相当であり、本件裁決における補償額合計二八〇八万三二四七円はこれに超過する。

六  結論

よって、本訴請求は、原告和辻が被告に対し四万九五五五円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六二年二月一五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九三条一項本文、九二条但書、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

別紙(省略)

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